館長ブログ

私のパフォーマンス理論

長く空手をやっていれば必ずピンチの瞬間がやってくる。ピンチの時にどう振る舞うかが競技人生の成功に大きく影響する。興味深いのはこのピンチの瞬間にこれまでの空手人生をどう生きてきたかが端的に現れたり、また競技人生での1番の成長が訪れたりすることだ。

私の空手人生で一番ピンチだったのは、2025年の4月のことだった。この年の3月初旬より約2カ月で体重が平時の83kgから一期に15kgも増え、方や大腿筋、大臀筋等大きな筋肉が歩けないほどに激痛が走るようになった。あまりの痛さに耐えかね自宅近くの外科を受診した。結果は異常なしだった。しかし、どれだけストレッチをやっても激痛は治まることはなかった。そこで二度同病院を訪ねた。そこで先生より大きな病院で精密検査を受けた方がよいでしょう。そう言われ紹介先の病院を訪ねた。精密検査の結果、甲状腺腫瘍による甲状腺機能低下症と診断を受けた。つまり全身の代謝低下である。それ以来、服薬、点滴治療、運動リハビリ治療を3年以上に渡り継続している。いつ治るか不明である。私自身、何度ももうダメかもしれないと思った。

あの時の感情を羅列してみると以下のようなものだったと思う。あれだけ気をつけて繊細にトレーニングを積んできたのに。これで空手できなくなったらどうなるんだろう。頭の中でずっとこのようなことが回っていた。

面白いのは、こういう時に時々楽観的になることだ。例えば根拠なく、三日間で痛みがなくなるのではないかと考えてハイになったり、アクセルを踏んでいる時に痛みがなかったのでこれは痛くないんじゃないかと思ったり。希望を持つというよりも自分を慰めるように勝手にいろんなことを思いついては、違ってガックリくるということを繰り返していた。

ちょうど近所のトレーニングセンターで、一人で上半身、下半身のストレッチを繰り返していた時、急に鳥の声とか、車の音とかがバーチャルに感じられて、全部自分とは無関係なもののような気分になった。自分は自分とは関係がないことを勝手に思いついては憂いているのではないか。後から考えればものすごく馬鹿らしいことをあれこれ悩んでいるのではないか。

結局のところ、実際に今から自分にできることは何か。空手は準備の競技だ。道場に来て練習し、ご飯を食べてよく寝ること。これ以外にない。だから一生懸命治療とトレーニングをすればいい。実際の空手がどうなるのか。ライバルがどの程度強いのか。また当日痛みがあるかどうか。ましてやそれがどのように道場生に受け止められるかは私にはコントロールできない。コントロールできないことを考えてもしょうがないし、そもそも関係がない。関係がないことを考えることは勝負に関しては無駄なことだ。このような見方の転換だったと思う。私は急に気持ちが晴れて、特段ハイになったわけではないが、目の前のことに没頭できるようになった。やれることを準備して、あとは日々の稽古を迎えよう。ダメだったらまたそこで自分にできることをやるだけだ。

私のこの体験はスポーツ心理学ではよく知られていて、コントロールできないものを意識するのをやめ、コントロールできることに意識を向けよという言葉で教わる。コントロールできないものの最たるものは他人と過去であり、コントロールできるものの最たるものは自分であると。だが、知識で知っていた言葉と実感とはずいぶん違っていた。体験した人にはよくわかる。一方でおそらく体験していなければほぼなんのことかわからない。

大事な点は、楽観的になろうとすることでも、悲観することでもなく、目の前にある自分にできる課題解決に集中することで、何を無視するかを決めることだ。自分の範囲を超えたものを恨んだり、憂いても改善は見込めない。
もちろんこれはとても抵抗感が強い。なにしろ自分のせいではない理由で自分がピンチに追い込まれることも多々ある。また本質的にはもっと大きなところに問題があることも多い。しかし、それで改善できるならいいけれども、改善できない場合は努力は無駄になる。

空手の稽古に結びつくのは行動しかなく、どう考えるかよりもどのように行動するかだけが空手家の成功を決めている。空手人生で最も足りないリソースは時間だ。その貴重な時間を考えてもどうしようもないことに費やすことは避けなければなければならない。最終的に空手人生を良い方向に勧めてくれるのは、ひたすらに自分のできることにフォーカスして、それを淡々とやり遂げることだ。他人も過去も未来も何が起きるかわからない。わからないことには起きてから対処すればいい。

コントロールできるものとそうではないものを分けられなければ、練習は無力感を抱く。コントロールできないものは、当たり前だが自分ではコントロールできない。にも関わらずそれをなんとかできると信じ、なんとかしようとすれば、常に思い通りにならない。結果、何をやってもだめなんだと無力感を抱き、敗北者のマインドが植えつけられるようになる。自信がある人間は、いきなり全てができるようになったのではなく、まるで自分を説得するように自分のコントロールできる範囲でやってみて、そして実際に変化が起こるのを見て自分自身を説得することに成功し、また次の課題に挑戦する。この繰り返しで自信を植え付けるものだと思う。

まとめ

先ず結論を私なりに3つにまとめてみました。

①コントロールできるものとそうでないものを分類できないと、自信喪失につながる。

② 貴重な時間は、自分ができることに集中し、それを淡々とやりとげることに使う。

③ 人生は今にあり過去にも未来にもない。

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